ムットーニという奇矯なアーティストが居る。
アーティストというよりは、自動人形師という肩書きのほうがしっくり来る。
高さが1メートル以上もある装飾が施された、
ジュークボックスのような箱の中で、
シアターは展開される。
細部まで作りこまれた精緻な造形物。
両側に置かれたこれまた装飾的なスピーカーから流れるジャズやシャンソンのBGMにのって、人形が動く、舞台も動く。何種類も仕掛けられた照明がその都度効果的にまたたき、時には静かに盛り上げる。
ストーリーが展開されるその時間はおそらくほんの数分。
そのあっという間の刹那の時間に、観客は箱の中の時間に引きずり込まれるのだ。
無機物のフォルモ粘土の人形がギクシャクと動く、
超ローテクのカラクリ。
ICチップも、CGも、レーザーフォログラムもそこにはない、
すべてモーターと歯車と、感覚的なタイミングで構築された、虚構の、絵画的世界、なのに、
生きているようなのだ。
この「ムットーニ」本名武藤政彦さんという。
10数年前に僕は彼の工房にお邪魔したことがある。
当時僕らが住んでいた借家の隣人が、武藤さんを良く知る人で、
すぐ近くに面白い人が居るんだよ。
といって、連れて行っていただいたのだ。
古い木造アパートの2階が彼の工房だった。
ひしめく道具。設計図。作りかけの人形やカラクリ。
普通の間取りのアパートだった場所は、細かく手を加えられ
彼の作るシアターそのものだった。
ただしスケールが1/1の。
だからそのとき僕の持った感想は、「マンガみたい。」
われながらありきたりすぎてチープでつまらない感想なのだけれど、
こんな風な舞台設定で展開されるあるシーンの登場人物になったような、そんな虚構の部屋だったのだ。
それで居てこれは雰囲気を盛り上げるための作り物というわけでなく、きちんと現実に機能している「生きた」場所なのだ。
大げさでなく、一瞬で飲み込まれた。
そんなムットーニの表現の圧倒的なバックボーンの厚みと説得力を見ることが出来る大規模な回顧展が、GINZA MATSUYAで今日まで開かれていた。
他の何にも似ていない。
相変わらずの演出の徹底振り。
イタリアテンペラ絵画というオーソドックスな手法が彼の出発点のようだ。
モティーフが立体になり、それが動き、
描かれた光ではなく、本当の光源を、
場面に流れているであろう効果音をBGMで、
時にはその音楽さえ自分でこしらえる。
シアター上演の際には彼自ら口上師に扮して場に解説を加える。
そうして、絵画のような戯曲のような紙芝居のような、
はたまたパフォーマンスのような
彼にしか出来ない奇天烈な作品が出来上がった。
いわゆる「はやり」のアートではない。
したがってカテゴライズは難しく、結果自らを徹底的に演出し、
自動人形師という肩書きで展覧会を行うアーティストとなった。
ものすごい盛況ぶりだった。
僕は実にはあんまりファンと呼べる対象は居ないんだけれど、
ムットーニというのは数少ないその対象のひとりなのだ。
という告白。
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そんな事もあったな〜と思いつつ・・・・
東京の日の出町にもワシワシワシ(と聞こえる)
クマゼミ出没、いよいよ来たか〜
あー。何処で見られているかわかりませんねー。随分昔のような気がしますね。その節はありがとうございました。
未だに忘れられないくらい貴重な機会を与えていただいて。
クマゼミ来ましたかー。やあ、とうとう日出町も亜熱帯化ですね。
とはいえここ数日は土浦も急激な秋の訪れですよ。