パリから約80q、ジヴェルニーという村に
彼が越してきたのは1883年の事、
43歳だった。
彼はそこで庭に川の水を引き入れ、大きな池を作り、
庭を日本風の庭園にしつらえた。
丸い太鼓橋に柳、そして睡蓮である。
有名な連作 睡蓮 はここで生まれた。
光の画家、そう呼ばれたクロード・モネ
私たちが視ているそれは、
その色とは、固有普遍のものでなく、
実は光なのだ。
目が認識しうるこの世界は光で満ちている
季節のうちにも、一日のうちにも、
自然の中に一時として同じ状態の色など存在しないではないか。
それはうつろいゆくもの。
ところで、彼の日本びいきは有名だ。
ジヴェルニーの彼の屋敷の壁は浮世絵で埋め尽くされ、
日本人の客はとりわけ歓待を受けたという。
行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし。
彼が「方丈記」を読んでいたとは考えにくいが、
世界はうつろいゆく、
という彼の感性は、Ce bon vieux Japon
古き良き日本の土壌から生まれた感性と
ことのほか相性が良かったに違いない。
紅鳶、中紅、榛、深緋、橙、金茶に鉛丹。
こう漢字で書くと、そのものの色を言い当てることはできなくても、
なんとなく、雰囲気でこう言う感じの自然の色、と
僕らは分かる。
日本の古色なんてちゃんと習ったことなんてないのに。
それを、文化と言おうが教養と言おうが、感性と呼ぼうが構わないのだけど、
僕らの中には、思いのほか豊かな色彩世界が内在しているに違いない。
気温 13℃
目のくらみそうな高さの展望台の手すりから見下ろせば、
鮮やかな錦に彩られた岩肌を、大瀑布の白が割り裂いて落ちる。
深呼吸をひとつ。色を いや、光を吸い込む。
すでに晩秋の香りのする9月の終わりの
尾瀬である。
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