2014年09月23日

カンタンカンタン。

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午前中には未だ蝉の声。
初夏に最初に蝉の鳴き声に気が付くことは多いけれど、
鳴かなくなる日に気づくことは難しい。
いつの間にか、だ。
一週間前だったかもしれないし、今日が最後かもしれない。
独唱となった蝉の声ほど、切なさをもよおすものはない。

そして代わりに夜の部には鳴き虫の声が盛況だ。
虫の種類も多いから、聞き分けるとなるとこれは骨だ。
音色はさながら絡まり合った糸葛のよう。

ところが、これがまた不思議なもので、
ひとつ耳が覚えてしまえば、
絡まった糸の束から、難なく
たった1本の目的の糸を引き抜くことができるようになる。

で、我が家で先月の末から澄んだガラスのような高音を響かせているのが
これ。

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カンタンという。
8月の終わり、土器さんや石彫の上田ご夫妻と一緒に山梨で遊んだときに、
土器さんに教えてもらった。

「カンタンを捕まえるの楽しいよ。昔、山の家でよくやったよ」

ほうほう、名前は聞いたことあるけど見たことはない。
声と姿は、検索するとすぐに分かった。
よし、記憶が薄れないうちにさっそく。

標高1000メートル。農場の周りの草藪からは予想通り
盛大に絡まり合った声声声。

うーん。
わからん。

でも
最初にその糸を見事に引き抜いたのは上田亜矢子さん。

ティリリイリリリリリリリ〜〜〜〜〜〜〜

おお、ストロークが長い。確かに似てる。これかも。
主は何処に?

あ、居た!
多分これ。画像確認。
鳴くのは雄だけで、雄には産卵管が無いからすぐにわかる。

当たり、かな・・・。

どう?これ?土器さんに確認。

「そう、こいつ。」

なんてこと。いともカンタンに。

それでロックオン完了。もう耳と目がやり方を覚えて、
次々と見つかる。
結局うちは3頭お持ち帰り。
さっそく100円ショップでタッパーを買って簡易飼育ケースを作る。

聞けば、カンタンの鳴き声は、
茶人の遊びのひとつなのだという、
ひょうたんなんかで容器をつくり、
丁寧に飼って、真冬などの季節はずれに、
茶席の片隅の暗がりで鳴かせるのだ。

趣、というのはそうした意外性にふと呼び起される感情の一つなのだ。

なるほどなあ。
ところがうちのは3頭とも4日たっても1週間たってもまったくの沈黙。
餌が気に入らない?容器が安っぽいから?
捕まって怒ってんの?
あれこれするうち、2頭がお亡くなりに。
あー、気の毒に。
にしても
鳴かないなあ。

ところが採集から12日めの夜。
ふとテレビを消したら、
てぃり・・
あれ、今の何?携帯?
ガス警報器?
てぃりり・・
あ、鳴いた。

てぃりりりりー。
あの声だー。
やっと。
やっぱり綺麗だなあ。

そーっと見てみると、残像が見えるほどの高速で
しきりに立てた羽根をすり合わせている、
体長1.5センチのけなげな姿。
途切れることなく長ーく鳴く。これが特徴。

それからはほぼ毎日てぃりりりり。
と楽しませてくれている。

楽しませてくれていた、のだが、
さすがに2週間も聴き続けていれば、趣にも賞味期限が見え始め、、、
草はらで聴いた時には他のさまざまな鳴き声と相まって、
一本の糸なんて例えても見たけれど、
家の中での独唱は改めて聴くと結構な大音量なのだ。

うとうと寝入りばなに、調子よくぴりりりりとはじまると
はっきりいっていい?
ちょっとうるさい。
そろそろリリース時かな。
気が付けば何のことは無い、うちの庭でも鳴いている。

ちなみにカンタンの名前は古代中国の都市、
邯鄲に由来する。
邯鄲の夢。という逸話が有名だ。
人の一生なんて一炊の間の夢のごとし、というまあ
人生のはかなさをしみじみ含んだお話。

うちのカンタンは、梨がお気に入りらしい。
3日ほどして梨が乾いてくるとよく鳴く。

餌〜!交換しろって言ってぃりりりりりりr〜んだろうがー!

はかない、かなあ・・・。
むしろこいつ強い自己主張の固まりに思えてきたなあ、

そんな秋、この頃。








posted by 前川秀樹 at 20:17| LOLO CALO HARMATAN | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする