

水戸芸術館現代美術ギャラリーの企画展を観に行ってきた。
「ダークサイドからの逃走、人間の未来へ」と題された展覧会。
戦争や飢えなどの社会問題ををテーマとした報道写真展
というと、その内容の多くが
生々しくグロテスクで悲惨なものに偏りがちだ。
どの画面も、これこそ現場の生の空気だ、
と強く強く競うように訴えかけてくる。
今回の展示、
テーマはやはり重苦しく暗いものなのだが、
選ばれた写真や彫刻、
映像はどれも実に静かで、それでいて、
観る側にずしりと強い印象を待たせるようなものばかりだった。
何よりどの作品もぞっとするほど美しい。
そして人はおろかだ。
アメリカの原水爆実験を見世物として
変なめがねをかけて眺める兵士達の姿が印象的だった。
のんびり椅子に座って眺める
この世にはありえぬほど巨大なきのこ雲
自らの被爆の事実を本人達は知らされていない。
作品の説明はものすごく控えめに小さくぽつんと横に添えられているだけ。
かわりに大きなモノグラムのような壁のビジュアルが意表をつく。
各展示室の壁や通路の壁に大きく掲げられていたのは詩だった。
谷川俊太郎 茨木のりこ、etc,,
絵を眺めるように文字を追う。
絵を読み取ろうとするように文字を感じる。
“言葉の展示”が新鮮でひとつひとつ言葉が沁みた。
日常的な写真がちりばめられた、
思わせぶりでチープなコピー満載の
のど越しのいい最近の流行の雑誌とは、
ある意味対極にある、底力を搾り出すような言葉達の姿。
よい展示は名作品を寄せ集める能力だけではできない。
かっこよく作品を見せるというだけでも足りない
1枚の名画を高いお金を払って観せるのもけっこうだが、
展示をするという意図と意匠と高い編集能力。
それがあいまって、作品同士は初めてかかわりを持ち、響きあい、
観客の心の奥底に届くメッセージとなりうる。
それはやはり“人の技”なのだ。
複雑で味わい深い余韻を残す上質な展示と
久しぶりに出会った1日。
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