2006年04月01日

4月のホラね。



未知の物ソ2.jpg

 高校生のとき、とある放課後の美術準備室、
僕は友達のH田と暇つぶしに
くだらないままごとをしていた。

デッサンで使う“ねりごむ”に水彩絵の具を混ぜて練って、色つきの練りゴムを作っていたのだ。茶色、灰色、赤、緑、、。
今思っても高校2年にもなって、なぜそんな“痛い”ままごとを、、、。
と思うのだが、多分すごく退屈で、おまけにねちゃねちゃとした手の感触が結構好きだったのだ。
練っていくうち、ねりごむは次第に粘着力を失い、
ぽそぽそとした、不思議な繊維の塊のような、役に立たないものになってしまう。それなりに時間がつぶれた。
 
が、やがて我に返る。
貴重な部の備品になんてことを。いまさらながらどうしよう、、。
暫く見つめたあと、ぴんとひらめいた。

これは地球外の物質ということで封印しよう。
それだ!
ひらめく方向は幼稚でなおかつ間違っているのだが、
なんとなく次の展開としては面白そうなので、
今度は二人で偽装工作に時間を費やすことにした。

僕は生物部にも顔が利いたので、
向いの校舎の、生物部の部室から、広口の薬品ビンを借りてきて、
中に丁寧に綿を敷きつめ、その物体をそっと納め、
それらしいアルファベットを書いたラベルをこしらえ
貼る。ふたにも紙で封をする。
ふたりのボルテージはうなぎのぼりだ。
我ながらよく出来ている。それっぽい。
友達と二人、窓辺に置いた出来立て標本の出来栄えを称えあった。
にやにや悦に入っていたそのとき、
がらり
誰かが突然戸を開け入ってきた。
友達のN野だった。
彼がそのビンを目ざとく見つける。
いかん。見られたか!?

一瞬だった。
 
「あ、N野、ええとこに来た!秘密やで、今だけやで。
これな、月から持ち帰った石やねん。」

真顔でとんちんかんなうそをついてしまった。しかも低い声で。

「うそぬかせ!」

自分でも無理があるのはわかっていたが、
そのときはなぜか「押し切れ」、と何かがささやいた。

「いやいや、それがほんまなんやって。俺のおじさんの知り合いが友達のアメリカ人のアストロノーツから譲り受けたんや。確か一月ほどの前の朝日新聞にのってたやろ?●●●●て名前の宇宙飛行士、、。」

適当な言葉がぺらぺらと出てくる。

「ああ、確か俺も記事を読んだで。そうやそうや、思い出した。
NASAにつとめとるっていう叔父さんの知り合いなんやろ。」

幸い友達のH田も実にノリがいいナイスガイだった。

「どうしてもってむりゆうてちょっとだけ譲ってもらったんや。すごいやろ。」

「、、、、ほんまかい、それ。」

徐々に傾いてきた。もう一息だ。

「ほかに見たこと無いやろ、こんな物質。さわったらやらかいんやで。」

「ええ、手でさわれるんか!?危なないのんか?」とN野

「大丈夫や。さわるときには絶対軍手をするんや。最近の研究で麻と木綿のの繊維が微量の放射能を90パーセント以上、防ぐ効果があるらしいいうて、このまえネイチャー紙で論文を発表した、イギリスの学者がおったやろう、、。ええとたしか、、、。」

「たしか、なんとかジョーンズ、、ちゃうかな。」と、すかさずリバウンドボールを拾うナイスH田。

「ああ、そんな名前や。3年ほど前ノーベル化学賞にもノミネートされたよな。」
 
「そうそう。」

自分達でも不思議なくらい、ぽんぽんと口からでまかせが、、。

理系の秀才N野君は、、つぎつぎと繰り広げられる
自分が知らない常識について、自尊心をぐらぐらに揺さぶられた思いだったのだろう。
いまさらそんなもん知らん、とはいえなくなっていたのだ。

とうとう「へえ、ほしいわあ、それ。」とN野。

僕とH田は、心の中で、 YES

「ほんなら、分けたげるわ。だれにもゆうなよ。今日はたまたまここにあるけど、実はNASAの機密らしいねん。」

「わかった。」

ここで、顔がにやけてはいけない。
最後の詰めだ。畳み掛けろ!アイコンタクトこそが大切だ

二人は慎重に棚から軍手を取り、手にはめ、「ええか、開けるぞ。息すんなよ。」
ビンを開け、大きなピンセットで
そっとそっと、その未知の物質を摘み上げて、ちぎる。
ぽそぽそしているから、すでにそれは練りゴムには見えない。
先のでまかせのおかげで、それは今やどう見ても月からの物体なのだ。

部室にあった小さな“クリープ”のビンに念入りに綿を敷き、
そのやわらかいかけらをうつした。

「ええか、気をつけんとあかんのは必ず軍手やで、それからあんまり人にいゆうたらあかんで。機密やから。」

「わかった、ありがとう。」

そういってクリープのビンを手にしたN野君は出て行った。

やり遂げた。
H田と二人笑い転げた。
わが事ながら本当にろくでもない。

その後数人に続けて同じ手口のサギを働き、わずかを残してすべての練りゴムを配り終え、残りを先生の机の引き出しに隠した。
というより、そろそろ飽きたのだ。

忘れた頃に“それ”は発見されたが、先生からは、大目玉ではなく“中目玉”をくらった程度で済んだ。先生も仕方なく笑ってくれた。

サギの成功の秘訣はサクラをいかにうまく配置するかだと知った。


 そういえば今日はエイプリルフール。4月バカ。
フランスでは、4月1日を四月の魚、(ポワソンダブリル)、
という。
いやこれは本当。













posted by 前川秀樹 at 13:55| Comment(5) | 粗忽の庭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一体、ナンですかーーー?!
昨日、お邪魔した時は入ってなかったこのマーク!
Posted by ニュウ at 2006年04月03日 21:34
はい、今現在、いろいろなブログ機能を実験中につき、ご容赦くださいませ。ちなみにツマには大変不評です。調子に乗るな、と。やっぱりやめようかな、、、。
Posted by maekawa at 2006年04月03日 23:43
ツマに賛成!(笑)
Posted by ニュー at 2006年04月04日 17:23
外圧に屈しました、、、、。
Posted by maekawa at 2006年04月04日 19:42
やったー、楽しみにしていた前川さんの絵つき日記。
高校生の青春のにおいむんむんのお話、気持ちよく笑いました。
Posted by naoko watanabe at 2006年04月04日 23:20
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