2008年09月28日

北海道記 その3 アルテピアッツァ美唄


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札幌と旭川の間に美唄(びばい)という町がある。
かつて炭鉱の町として栄え、
当時は30000人を超える人々がこの美唄地区に暮らしていた。

多くの炭鉱町の例にもれず、
石炭の需要の減少とともに炭鉱は閉鎖され、
町は急激に痩せて行った。

現在では露天掘りの石炭採掘がわずかに行われるばかりだ。
無論今も人々は暮らしている。

周囲の密集して建てられていた炭鉱住宅や
様々な施設は取り壊されたが
学校の建物は残った。

旧校舎の一部分と体育館を中心に起伏のある広い7万平米の土地は
今、彫刻公園として親しまれている。
そのすべてをプロデュースしたのは、
イタリア在住の彫刻家、安田侃。
札幌駅コンコースの巨大な白大理石の彫刻「妙夢」
が有名だ。

ひろいひろい芝生と木立を眺めながらのカフェと、
ワークショップが行われるアトリエが昨年新たにオープンした。

安田侃の彫刻を眺めながら、一日がゆっくり過ぎていく。

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時間が止まったような、と形容したくなる特別な場所がまれにある。
それは無論ほめ言葉なんだけど、
ここはその中でも特にそうした気分にさせられる。
ばかりか、ごみ一つ落ちていない清められた芝生と
木立の中にただたたずむだけで、
森の中の聖域ような清浄で神妙な気持ちにもなる。

実際の管理を行っているのは、町とNPO法人、アルテピアッツァ美唄
いろいろと話を聞くことができた。

炭坑での大規模な事故の悲劇、
たくさんの人々が何度も巻き込まれた。
炭坑内での火災においては、
穴に大量の水を注入するのがその一番の処置なのだが、
それはその穴の廃棄を意味する。
鎮火後も穴を存続させるには、いち早く炭坑の出入口を閉じ、
空気の流れをを遮断するしかない。
いずれの方法もそれには、炭鉱夫の全員避難後が大前提だ。
が、時には“全員”ではなかったことがあった。
閉じた入口までたどり着いて亡くなった方もいたそうだ。
あと板一枚で空気を胸いっぱい吸い込むことができた。
生きられた。
どれほどの熱さだったか、どれほどの絶望だったか。
日本人ばかりでなく韓国からの労働者もそこにはたくさん含まれていた。

他にも肺を痛めた炭鉱夫たち、結核療養病棟の話も聞いた。

悲惨な話ばかりではない。
案内してくださったNさんの話によると、
古い校舎の教室の壁に今も貼られたままの、自分の名札を見つけて
うれしくて涙を流した女性の話。
その方も今は母親として、子供を連れてここを訪れた。

祭りの話。

30000人がここにひしめいていた。
ほんの数10年前、ここはさまざまな思いや、喜びや悲しみ。
人々のエネルギーに満ち溢れていた。

今、その周囲のたたずまいからその当時の面影をしのぶことは難しが、
つまり現在この公園は、
安田侃というたぐいまれなる異能の作家と
町が死んでゆく様をその目で見てきた町の人々とのコラボレーションで作られまた、進行形で整備がすすむ、鎮魂の場所なのだ。
土地に込められたさまざまな物語の上に、今この石碑は静かに置かれている。

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そんなことに思いをはせて改めてこの場所の空気を吸い込んでみると
深い所に吸い込んだ澄んだ空気が不意にふれる。
ああ、ごみ一つ、落書き一つ、あってはならない場所なのだな、と感じる。
 
とりもなおさず、そのことは、
清められた状態を保つ努力を惜しまない人の手が
現在進行形で存在していることを示唆している。

芸術作品は、確かに一人の芸術家の思いを形にしたものには違いない。
もっと言えば、それは研磨された大理石にすぎない。
ただの“もの”だ。
しかし、この場所で今、無機質な石たちは
特別な役割を得、
たくさんの人々の過ぎ去った思いの上に静かに立ち、
風景に溶け込みやがて一体となってゆく。

そういう芸術の在り方があるということに
改めて新鮮な驚きを覚えた。

校舎の1階は今も幼稚園として使用されており、
カフェや体育館で時折行われる、朗読会やコンサートには
地元の人たちの心のこもった手料理などが並ぶことがあるという。
ここに残った人々の、また戻ってきた人々と新たに移り住んだ人々の
ささやかなつながりが生まれ始めている。

北海道ならでは、なのか、炭鉱町のその歴史ゆえか、
はたまた、その場所に住む人々の純粋な願いゆえか。

美味しいコーヒーをいただき、職員、Nさんの愛情あふれる案内ガイドに耳を傾けながら、
こんな場所が近くにあったらなあ、、、。
とこころからうらやましく思えた。




posted by 前川秀樹 at 21:23| Comment(0) | LOLO CALO HARMATAN | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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