一緒に給食
ご褒美に、お礼にと、15人の子供たちから歌をもらった。
これには不意を突かれた。
こんなことは全く初めてのことだった。
そのあまりに美しいハーモニーに、済んだ声に
何度も何度も僕はこみあげてきた。
これはまずい。
その声はいやおうなく、まったくのノーガードで僕の深いところに入り込もうとする。
泣きそう。
いろいろと笑えることを思い出そうとした。
前の晩、ホテルのテレビで見た友近のコントとか。
そんな複雑な表情を見られたくなかった僕は
彼らの正面でなくて斜め前に立っていてよかった。
僕は体育館の真ん中でそんなことを思っていた。
北海道の東川町。
第2小学校の5,6年生の子供たち、15人。
彼らと一緒に、白樺の木から神様を彫り出した。
北の木偶の棒。
この人たちの中にきっとある、北の神様の姿を見てみたかったのだ。
はじめて小刀を手にする子供たち。
最初はこわごわだったけど、
すぐに慣れ始めて、どんどん白樺の皮をむいてゆく。
手を切ったって気にしない、
彫ってる枝に血の模様がついたってなんのその。
何というか、勇敢というか動揺しない人たちだなあ。
いや、夢中なのか。
担任の先生は最初心配そうに生徒たちを見ていてくれたんだけど、
途中から自らも太い丸太のような枝を彫り始めて、
その自らの視界と集中力を、目の前の丸太にのみ向けていた。
ふと見ると、ほかの先生方も、カメラマンの方まで、、、。
そう、こういうのが面白い。
見てるとついやりたくなっちゃうでしょ?
校長先生も教頭先生も自ら子供たちに手を貸して下さっている。
助かります。
今回も本当にたくさんの人たちに出会ってお世話になった。
参加してくれる人たちだけじゃなくて、
その周りにはたくさんの役割の人たちが
この尊い時間を支えてくれている。
そのことに
ただ感謝だ。
いつも思うことなんだけど、
この場所でのこのいい空気って、2度はないということ。
たった2日間。
ほんの一瞬交差するだけの貴重な時間。
もしまた縁があって、僕がここを訪れることがあっても、
もうこの人たちはこの場所にはいないかもしれない。
いやきっといないんだろう。
だってここは学校なのだ。
毎年沢山の生徒や先生が通り過ぎる場所なのだ。
数年後、いったいこの子たちのどれほどがこの町に残っているのだろう?
いく人の子供たちがここを去っていくのか?
この子たちはこれからの人生の中で、どれほどの先で
この清い水の湧く美しい大雪山を仰ぐこの場所を、心から大切に思うようになるのか、、。
僕自身島の学校で、同級生はたったの17人だった。
その時にはその場所が一瞬の交差点だなんて思いもしなかったなあ。
なんて、ふと僕は昔思いに頭を任せてみる。
「先生、できました!」
「腕をここにつけたいんです。」
ぼんやりを打ち破る声。
「おお、いいねえ!、なるほど、なるほど。」
ここから、この枝から神様を彫り出して″
それが僕から彼らへの最初の問いかけ。
その返答が次々帰ってくる二日目。
どの返答もあまりににまっすぐで透明だ。
ああ、きれいだなあ。
僕の一番幸せな時。
どうにもまいったね。という“ためいきもの”の返答も少なくない。
うーん、負けそう。
でも、関心ばっかりしてても仕方がない。
ただただ心地の良い言葉でほめてばっかりじゃ芸がない。
僕だってね、立場ってものがあるからね。
ゲイジュツカ、いや、その前に先ず大人だからね。
最初の問いかけをした責任ってものもある。
だから
全力の言霊を打ち返すよ。礼儀だからね。
彼らの最初の返答にもう一度うち返す僕の言霊は、
生まれたての神様の対する、寿ぎの言葉。
礼を払って
言葉が祝う。
ときにその言葉は難しくてキョトンとする子もいるけれど、
僕はそれでいいと思っている。
きっといつかわかるよ。
まあ、これから先いつか、何となくでもいけど、
その言葉を思い出して
ふっとわかるような気がするときがきたら、
その時はじめて、あなたが彫り出したその神様に触れることができた瞬間だと思うといい。
その時は今度はあなたが祝ってあげるといいよ。
たいていはここまでで終わり。
ところが今回は、さらにもう一回僕は打ち返された。
彼らからもう一回打ち返された言霊はピアノの旋律に乗っていた。
これは反則だよ。
参りました。
いや、でも
負け、、、、、たわけじゃないよ。
うん、そう簡単に大人はね。(笑)




展示作業もその日の夕方一気に行った。
町にある小ぎれいな唯一のギャラリースペースで。
展示台にシナベニヤを敷き、木偶が倒れないように両面テープで張り付けたあと、僕はひとりひとりの作者の顔を思い浮かべながら、
板に彼らの名前を書かせてもらった。
せめてもの歌のお礼に。
僕の木偶や像刻も一緒にいくつか並べた。
いい展示だと思う、展示期間は2週間だそうだ。
ああ、ここではじめて僕は一仕事終わった。
最後に改めて。
事前に用意してくださった白樺の枝が足りなくて、
急きょ前日に電話で根回しをして下さったばかりか、
自らネクタイに長靴といったスタイルで、
古びた役場のダットサンを運転して
山に新たに枝を取りに連れて行ってくださった、
教育委員会の室長さん。
素早いレスポンスのおかげです。
間に合いました!あの枝がなければ二日間なり立たなかった。
事前連絡から、当日の枝運び、道具の用意、
ヴィデオ撮影まで大活躍してくださった教頭先生。
あちこちにクマ出没注意の看板の立った山での枝採り。
勇敢に朗らかに快く
付き合っていただいてありがとうございました。
そのおかげで、夕方の職員会議をひとつ
すっぽかしてくださったこと、
この場にて感謝と陳謝いたします。
今回の素晴らしい出会いを、わが学校にぜひ!と
大きな熱意で推し進めて実現してくださったT校長先生。ならびに各先生方。お世話になりました。
御役に立てましたか?
そして何より、こうした出会いのチャンスをまず拵え、育て、お膳立てして下さったばかりか、すべてのコーディネイト、長い旅の案内役と御供をしてくださった、
北海道文化財団のイソダさん、ムラヤマさん。
まったくことばでは感謝が足りません。ありがとうございました。
最後に、これは余談ですが、
T校長先生は、俳優の阿藤海によく似ています。
少なくとも僕はそう思います。
声も、言葉の調子も、また背格好も。
僕は何度も誘い球を投げていたこと、お気づきだったでしょうか?
もちろん、阿藤海の声で「なんだかな〜〜〜。」
を聞きたかったからです。
残念ながら、最後に握手をする瞬間まで、
その願いはかないませんでした。
ワークショップに関しては、僕は勿論100点満点の印象ですが
そのことだけが、少なからず心残りでなりません。
心残り、がある以上、また御縁があるやもしれません。
次にお会いした時に開口一番、
発してください。
「なんだかな〜〜。」
心より楽しみにしています。

日が暮れますよ。
つい数日前、半そでで東川の町から仰いだ大雪山旭岳、
今日初冠雪、のニュースが茨城でも流れましたよ。
秋を通り越して。冬ですね。
みなさんお元気で。
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一緒に枝取り・・・沢山の感動ありがとうございました。
コメントありがとうございます。はい、不意打ちで実に複雑でした。やるなあ、第2小学校(笑)