
遅々として進まない制作に業を煮やし、
えーい、もう耐えられん!やってられるか!
と、一日だけ休みを取ることにした。
どうせ逃亡するなら(日帰りだけど)遠いところまで
と、上野から北陸新幹線に乗って新潟 糸魚川まで足を伸ばした。
目的は最近急激にはまりつつある石拾い。
改めて言葉にするとなんて地味なんだろう。
昆虫から鉱物へとシフトしつつある今日この頃。
さて、浜の波打ち際に出てみるともう石石石。
こういうところを歩いてもこれまでは、
全部ひっくるめて漠然といろんな石でしかなかったものが、
連日の予習のかいがあって、なんかそれなりにわかる。
それぞれが、別々のものと判別できることに興奮を抑えきれない。
おお!蛇紋岩、花崗岩、チャート、流紋岩、方解石の結晶 、これは蛇紋岩に碧玉が混ざってる。
エトセトラ。
どれもたいして価値のあるものではないけど、知ればこんなに興味深い。
来てよかった。幸せ。
とはいえ、石で有名なこの浜を選んだからには一番のお目当ては別にある。それは、
翡翠。
僕の拙著ズフラの中で、「そにどりの話」というのがあって、
それは、若いころの主人公が山中に翡翠を探しに来て、奇妙な出来ごとに出会う話だった。
翡翠はカワセミ(そにどり)と同じ名を持つ僕のあこがれの鉱物のひとつなのだ。
今回は山には入れないけど、このあたりの浜には上流の川からまれに流れでてくるらしい。
有名な場所なのでずっと前から知ってはいたけど、なかなか機会がなかった。、
けれど今日はやっと、やっと念願かなっての翡翠探しの日だ。
期待は膨らむばかり。

さてと・・・・・
えっと、どれ???がそれなのかな・・・?
めげずにさがすさがす。
しゃがんで立って、歩いてまたしゃがんで。
しばらくして目が慣れてくると、
予習してきた翡翠の写真の石に似たものが結構見つかる。
なんだこりゃ、いくつもあるにはあるが・・・
いったいどれが本物なのだ?
見てすぐにこれだ!と分かるものかとてっきり・・・。
これぞ!という決定打が出せない。
どれも違うように見えるしどれもそれのように見える。
流れ着く翡翠輝石という鉱物は、取り立てて特徴的ななりをしているわけでもなく
白が基本で薄い緑からグレーだそうだ。
それに似た紛らわしいものがまたここには実に多い。
途中、立ち寄った道の駅に展示されていた
「ヒスイと間違えやすい石」
なるものを見ただけでも約10種類。
それらのうちさらに紛らわしい2種類ほどを俗称「きつね石」と呼ぶ。
ああ、僕ら見事に化かされてます NOW。
大量のきつね石のつまったビニール袋がさらにずっしりと感じる。
候補のうち大半がここで脱落。
でもまあ標本として僕は他の石もきつね石もしっかり持って帰るけどね。
しかし、こりゃ、なめてました。
わからん。
一休みしてお昼にしよう。

たら汁定食。
鱈腹でした。
さて、再開。
すくなくともきつねがどういうものかは理解したぞ。多分・・。

浜には平日だというのに、釣り人が結構いた。
その人たちがなぜか波打際を、右に左にと走り回る。
走っては沖に向かって仕掛けを投げる。また走る。
だからのんびり下を向いて歩いているとぶつかりそうになる。
一体何を狙っているのか、とふと目を沖に向けてみれば、
遠くに近くにざわざわと波だつサークルが見える。
魚が沸いている。
聞いてみるとワラサらしい、要するにブリの稚魚だ。
でワラサが追っているのは、イワシの稚魚。
みれば逃げ切れなかった透明な稚魚が沢山波打ち際でぴちぴちもがいていた。
なるほどなあ。それをおっさんが狙うわけか。
「釣れますか?」
「うんにゃ、だめだ。イワシで腹いっぺえだから喰わねえ」
でしょうね。
仕掛けの疑似餌、繊細なイワシとは似ても似つかないもん。
きつねにしても出来が悪いよ。
それじゃ化かせん。
そこでふと気が付いた、
幾人かのおっさんの背中に、見慣れない棒が見える。
長さ1・5メートルほど。
先にはステンレスの大きめの茶漉しみたいなものがくっついてきらきら光っている。
釣り?には関係なさそうだけど・・・・。
ああ!なるほど、このおっさんたちは、つまり翡翠ハンターでもあるわけか。
ワラサ釣れなかったら、代わりの獲物は宝石かー。
つまり波打ち際の浅瀬から、あの長い茶こしでひょいっと。
それがこのあたりの地元紳士のたしなみなんですね。
あ〜、こんな猛者たちの歩く場所で、素人が調子こいてましたー。
ちょっと脱力してしまった。
気を取り直してそのうちの一人をつかまえて、
あつかましく簡易鑑定をお願いした。
午前中に千恵が発見した。もっともイメージに近いかけら一つ、と他。
すると、
「ああ、これはそうだろうね」
よかったー。暫定翡翠1号!!!
これがそう。

いわれてみればなんだかほかのものと輝きと品格が違って見えて来た、ような(笑)
それからも、暫定1号を手本にして何度も見比べながら
日の傾くまでうつむいて歩いてみたけれど、
あの輝きには出会えることは無かった。
でもこれはきつねか、いやいやもしかして。というものをいくつか手土産にして、
日本海を後にした。
駅の物産館でおばちゃんに、ひとつ拾えましたよ。
と言ったら、
え!本当に?それはすごいね。
と驚かれた。
やっぱり、名所となってしばらくたってから、
今では、めったに見つらない珍石となっているらしい。
だからこその宝石の価値なんだなあ。
展示された研磨済みのものって、
まるで新緑の渓谷のようにみずみずしい透明感にあふれていて、
なおかつ堂々とした輝きを放ってる。
うっとり。
あー、このポケットの虎の子もこの分じゃ怪しいかも・・・。
近いうちにつくばの地質学研究所で鑑定してもらおう。
白黒はっきりつけたいようなこのままの方がいいような複雑な気持ち。

でもこんなに興奮できる楽しい宝探しは久しぶりだ。
冬が終わったらぜひまた行こう。
次は茶こしおやじに素直に教えを乞うことにしよう。