化石。
カブトムシと並んで天然少年の心をくすぐるお宝アイテムである。
山の中で見つける大昔の海の底の生き物。
それだけで、その石ころに刻まれた印影は、
子供にとって計り知れない価値を持つ。
いや、大人になってもやっぱりそうだ。
だから僕は今回、虫はほどほどにして、少ない時間を沢歩きに充てた。
コツを教授してくれたのは、とある博物館の若い研究者のOさん。
博物館の展示の解説と、翌日フィールドにも連れて行ってくださった。
指示された灰色の石を探して、ひたすら割る。
必ずなにか出てくるとは限らない。
でも何かが出てくるかもしれない。
全く宝探しだ。
長靴で歩けるところまで。
どんどんと沢をさかのぼる。
翌日は一人でまた別の沢に降りてみた。
車を止めた途端、アブとブユの大群がわっと車にたかる。
これには参った。
虫よけスプレーなどものともせず、じっと留まると、たかって来る。
とにかく飢えているのか、凶暴なのだ。
お蔭でむき出しの両手両腕がグローブみたいに腫れあがってしまった。
おのれ、アブども!
大きなかつらの切り株。
こんな角度で見たことがない。
水の流れる側から見えてくる景色は新鮮だったなあ。
夜の間にはいろんな動物もまた、水辺にやってくるようで、
残された種類の違う足跡や、ふんでそれがわかる。
沢。
これまで林道わきに流れているのを上から眺めることはあった、
流れを横切る時にはそのひやりとした空気や滑る岩を飛び越えることもあった。
しかし、そこまで降りて、流れに沿って遡る、という体験は新鮮だ。
両脇の抉られた山肌。腐食した植物や淀んだ泥の匂い。鮮やかな苔の緑。
頭上を急に横切るカワガラス。
岸の草むらから驚いて飛び出した雄鹿に僕の方が腰を抜かしそうになる。
熊じゃなくてよかった。
人の道とはまた違う、水の道。
小さな体の自分が皮膚の浅いところを流れる血管に
間違えて紛れ込んでしまった異物のようにに思えてくる。
最も視界のほとんどは足もとの石ころばかりだけど。
これは、アンモナイトの殻の縫合線。
博物館で見た。ああ、やっぱりちゃんと落ちてるんだ。アンモナイト。
初めて見た。
でも、想像していたあの丸く巻いた形じゃないなあ。欠片か・・。
それにちょっと大きすぎる。全体を想像しても相当でかい。
うーん。残念。
こっちは?
なんだろう?
なにか、ではあるんだろうな。
割ってみるか、いやいや、このままでも綺麗じゃない?
結局、今回は下見的な結果となってしまった。
発見できたのは、ようやくそれとわかる欠片ばかりだった。
ただ、本当にそこにある事は分かった。
8000万年前のここが、海の底だったという動かぬ証拠は確認はできた。
次は、次こそはもうちょっと綺麗な欠片を拾えるように、下調べをしていこう。
余談、道路の真ん中に黒い固まりが。
あれは、間違いなく・・・
ヒグマの落としものでした。泊まった宿から朝の散歩中にあったもの。
昨夜の雨で流れちゃってるけど、一昨日あたりのものには違いない。
興味があったので、近くの落ち枝でほぐしてみる
山ブドウの蔓、以外は何の植物かわからない。いろんな繊維や葉の痕跡。
昆虫等の痕跡なし。動物系タンパク質は取らないんだなあ。
狐や狸のフンとはまるで中身が違う、テンやイタチとも。
北海道のヒグマは世界のその仲間に比べて、
極端に草食性へと進化した珍しい例であると
聞いたことがある。
ただ、草食性だからって、危険であることには変わりない。
だって、大きいもの。
意外とこんなに近くに普通に居るものなんだなあ。
ちなみに今回、
林道を含め路の上でみた熊のふんは 合計7つ。
迂闊に沢なんて歩いてたら、いつかばったり、
なんてことがあるかもしれない。
鈴以外にも、笛とか、スプレーは必要かな。
荷物が増えてゆくのは嫌だけれど。
毎回、僕には何かしらの発見をもたらしてくれる北海道。
でも、多分知っているのは未だ10分の一くらい。
とにかく広い。
茨城空港から新千歳空港への定期便の存続が危ぶまれたスカイマークだが、
いまのところ、減便は無いようだ。
僕の発見フィールドへの直行便、どうにか現状で存続してほしいものだ。
次はいつになるだろう。
機会を黙して待とう。