
夕方にコンビニにたばこを買いに出かけたときに、
道向いの高台の木立で一服していたら、
大人だか子供だかよくわからない人物が
赤土の山に腹這いになっていた。
トカゲの日光浴よろしくじっと動かない。
何かから隠れているのか、
と思ってしばらく見ていたけど、
彼が山の向こうの様子をうかがう素振りはない。
どうやら周囲に仲間は居ないようだった。
やがて彼は、
右手をのばして山のてっぺんに、
土の固まりのようなものを
丁寧に積み上げ始めた。
行為は、気まじめにずっと続く。
崩れては積み上げ、また積む。
そのあともしばらく見ていたが、
程なくして彼は赤土と一体になったかのようにうつ伏せになったまま
動かなくなってしまった。
何となく昔の自分の姿を
後ろからこっそり観察しているような、
妙な気分になって来た。
どことなく背中が似てる、気がする。
結局そのまま、動きがないので、
僕は観察をやめて、帰ってきてしまったけど、
家で漢和辞典をひも解いてみれば、
「這」 という漢字、 這う 腹這い 這回 etc...
辶 は分かるとしても 言 はなんでなんだろうなあ。
と思ったら、
漢字の意味自体は、「出かけて行って言葉をかける」
だそうな。
要するに、這 は相手への、丁寧なへりくだった、
あいさつの姿勢、を示すらしい。
なるほど、
やはり彼は、「孤高の腹這イスト」だったのだ。
彼は、目上の誰かに、あるいは赤土の峰に五体をなげうち、
精一杯の敬意で、礼を尽くしていたのだな。
想像通り孤高の腹這イストは
敬虔な祈りの徒でもあったのだ。
まあそんなわけは無いけど(笑)
丸顔坊主頭の怪しげな大人が自分の背中に
そんなやちもない想像を巡らせていたことなんて、
たぶん彼は一生知ることは無いだろう。