
初夏とはいえ、未だ残雪のちらほら目立つ、ブナの森を歩く。

山頂の山肌にはまだまだ雪模様

ブナの巨木。
でも実は今回の目的はこれ、

コルリクワガタという。
その名の通り小さい。体長約1,5pほど。
クワガタ特有の大きな顎も控えめで、
およそクワガタらしくないクワガタである。
これでも雄である。
小さいがしかし、色は美しい。
生息場所によって色はさまざまらしいが、
このあたりのものは、紺色のメタリックだそうだ。
実際には写真よりももう少し明るい紺色だ。
標高の高いブナ帯で、しかも芽吹き時のわずかな期間にだけしか姿を現さない。
出会うことがなかなか難しい類の甲虫である。
長年、ぼんやり夢見てきたが、
なかなかタイミングが合わず、断念し続けてきた。
そんな、素人がちょっと出かけたくらいで、
見つけられる虫じゃないんでしょ。
と、高根の花となかばあきらめてもいた。
が、今年はタイミングも良かった。時間がとれる。
よし、見つけに行こう。ダメ元でいいよ。
とはいえ土地勘はない。
よし、
こんな時にはいつものサンペイ君に電話。
芽吹きのブナの森に行きたい。
これこれこういう生態の珍しいクワガタを見に行きたいんだ。
どこが良いだろう?
とリクエスト。
彼は山岳のベテランではあるが、昆虫はまったくの専門外。
それでも、丁寧に下調べをしてくれたらしく、
地図から、
このあたりどうでしょう、とあたりをつけてくれたのが、
福島県某所。標高1400メートル。
北側の斜面なので、日当たりも悪いはずだから、
この時期でも育ちすぎてない、
ちょうどいい具合の新芽があるかもしれません。

緩やかに上る気持ちの良い道。
林道の両側は森は開けていて、
日当たりも思いのほか良好だ。
見上げればこれ以上は望めないほどの空。
ああ、個展がおわったんだなあ。
と今更ながらの解放感とともに、
ブナの若芽をつぶさに見ながら、ひたすら歩く。
約一時間ほど歩いただろうか。
さすがにちょっと疲れてきた。
コルリクワガタ気配ゼロ。

うーん、やっぱり居ないんじゃないのかなあ?
若芽も図鑑で見るよりもちょっと成長が進んでいるみたいだし。
時期が遅かったかなあ、、、。
あるいは生息場所がずれてるか、、、。
ポイント変えてみる?
と引き返しかけたその時。

居たー!
第1号発見は
サンペイ君。
え、うそ!うわ!すごい。ほんとだ!教科書通り。
新芽にもぐりこんで食事真っ最中。
こんなにちっちゃいのか!
でも、ブルーだね。雄だ。うわー!
大騒ぎ。
こんな小さなものでも、読みがどんぴしゃりと当たった時の痛快感は大きい。
図鑑の中だけでしか知らなかった生き物が
本当に生息していて、目の前にうごめいている。
そこには感動が少なからずある。

興奮冷めやらぬまま、よくよくあたりを見てみると、
あちらにもこちらにもくっついている。

ここにも。

こっちはペア。
気温も上がってきたせいか、こういう盛り場のような場所には、
次々とあとから飛来する個体もあるようだ。
飛んでいると、きらきらと青く反射するのですぐにそれとわかる。
なるほど、これは綺麗だ。綺麗なだけじゃなく、なにより品がある。
いやー。どん底気味だったテンションが急激に沸騰しましたね。
いや、まったくだ。これだけ騒いでると熊も寄らないよ。
それからさらに少し登って、引き返すことにした。
今日はもう十分。
それにしても楽しかった。

これはまた別の林道。標高もだいぶ下がったせいか、
ブナは無いが、桂の大木がいくつもあるこれまたいい森だった。


はい、コーヒータイム。
今日はちゃんとドリップ式野点セットで。
いつもながら準備周到なサンペイ君。
それ背負って歩いてくれてたんだね。
今回は翠嵐に染まりながら。いや、ほんとに贅沢です。
5割増しくらいで美味しいね。
そしてその後はお決まりの、温泉&蕎麦。
それにしても、今回の森、
コルリクワガタにとどまらず、ほかの種類のあれやこれやもやたらと多い。
とにかく生き物の濃度が高い。
これが大規模なブナ帯を形成する山の
生物多様性というやつなのだろう。
歩くだけで、
自分もまた、
内側からむくむくと生命の気が満ちてくるのがわかる。
こういう森はずっとこのままあってほしい。
ああ、また次もがんばって制作しよう。
遠かったけど行ってよかった。
また来年来られたらいいなあ。