
「スズキさん、近々釣りの予定はないですか?」
「ああ、来月行くつもりだけど。」
「あ、それ一緒に連れてってください。」
9月の末のこと、いつものプール教室でそんなやり取りがあった。
山も終わりだし、狩猟本能がうずいて仕方がない。
うーん外で遊びたい。アトリエから出たい。
よし、海に行こう。
まずはプールで、さりげなくベテランのスズキさんを釣る。
しめしめ。
スズキさんには、時々誘っていただいている。
連れて行っていただいた僕の最初の海釣りが、
これ。
10月初めのころ、
今回は、銚子沖でハナダイを狙いましょう。
ということで、夜中の2時起き。
出港は早朝5時。

漁火と、船のエンジン音の響く岸壁。
後は出港を待つのみ。
なんだか旅行で遠くにきたみたい。

夜も明けて外海にしては本日、波もまあまあおだやか。
漁場までは1時間弱。
初めてのハナダイなので、船長とスズキさんに要領をご教授願う。

えさはこれ。文字通りエビで鯛を釣る。

釣り船って本当に機能的にできていて、足元はすっきり。
腰掛けや細かいものを置く棚も、それぞれのえさ桶と魚桶には、
パイプから水がこまめに供給される。
ポーン。
船長のブザーの合図で、右舷、左舷、一斉におもり投下。
着底を確認したら、すぐさま根がかりしないように、糸を張る、
竿を上げ下げして、エビの活のよさを鯛に目いっぱいアピール。
どうだ、ほれ、うまそうだろう。
ここが腕。
ほどなくして、びくびくっとアタリがあったら、ぐっっと合わせて
あとは引き揚げるだけ。
竿やシカケの扱いも、それほど複雑ではないし、
このハナダイ。なかなか大食漢にして獰猛のようで、
引きも強く手ごたえも十分。
つまり、ビギナー向けの釣りかもしれない。
素人の僕でも次々釣れる。

一服中のスズキさん。
最近延ばし始めた髭のせいで
海人、山男、どちらにも見える風貌をしているです。

スズキさんのクーラーボックス。
えさ盗り名人のウマヅラカワハギやカワハギを着実に針にかけられるのは、
腕のある証拠。僕は1尾しか釣れなかった。
奴らに気前よくエビをふるまったようなものだ。
ときどき、ハナダイ以外のものもかかってくるのがまた、
アクセントが効いていて面白い。
どれも立派で外道、と呼ぶのが申し訳ない感じがする。
ウマヅラカワハギ、イナダ、カンパチ、サバ etc,
気がつくと、すっかり日は高くなっていた。
お昼に船は港に帰る。
夢中になりすぎて、時間はあっという間に過ぎる。
途中で、ちょっとだけたばこ休憩と小腹休憩を取ったけど、
あとは、もうひたすら竿の上げ下げ。
おもりの感触で海底の地形を想像して、
えさの降りてきたときの魚の興奮を思い描いて。
そそるエビの動き方を工夫して。
それが楽しいんだな、たぶん。
狩猟本能が満たされる、というのは単なる収穫の興奮だけじゃなくて、
自然を相手にして、想像力と労働と結果の微妙なバランスの上に成り立ってる。
うーん、これは中毒になりそうだなあ。

さて、大漁でした、と。
でも、まだ終わらない。
きちんと食べるまでが狩猟ですから。
ここからが大変。今日中に終わらせないと痛むから。
一尾一尾、鱗とわたとえらを取って、
3枚におろして、が延々・・。
まだ終わらない。
ああ、痛たた、今頃になって日ごろ苦しんでる40肩の痛みが、腰が・・・。
海の上ではなんともないのになあ、不思議だ。
御近所に配って。
でもまだある。
鯛飯に塩焼きに酢漬け、刺身にあら汁。後は冷凍。
魚にあった料理法もほかの釣り客の方やスズキさんに伝授願う。
行く数日前にヤマダ電気で購入した魚焼き器は大活躍。
食欲も満たされた。
どれも確かにおいしかったけど、
でも、とうぶん、食卓に魚はいいかな。
とはいえ狩りは楽し、また行きたいなあ。
スズキさん、また機会があったらお願いします。