「あのー、自分、リサイクル業をやってるもんすけど。」
猛烈なメイストームの去った翌日のこと。
玄関前で声がする。
みると大柄な体格で作業着を着た若者が所在なさげに立っている。
南方系の目がくりっとして日焼けしたあんちゃんだ。
アトリエから出てきた僕の作業着のほうがずっと汚い。
「何か?」
「あー、すみません。自分鉄くずとか集めて回ってます。裏のあれ・・・・・・。」
なるほど、うちはとにかくこの業種の人に目をつけられやすい。
ナガシでトラックで回っている人のいい標的だ。
無理もない。家の周りのそういうガラクタが目立つから。
いつもは面倒なので、これ必要なものなんです。
とお帰りいただくのだけど、
その時はなんとなくとっさに、ああ、持って行ってくれる?
と言ってしまった。
あんちゃんの嬉しそうな顔。
家の裏の積み上げた鉄くずや、いつか取り付けようと思っていたエアコン。
などなど。
あんちゃんとトラックの助手席から出てきたツレのおじさんと二人はさっそく、
半分土に埋もれかけた、古い鉄を引っ張り出して積み上げる。
煙草をふかしながら、
それをみる僕。
ああ、良く集めたなあ。
僕が生活道具を盛んに拵えていたころ、
素材として収集した。
こちらに越してきてはやくも12年を過ぎたけど、
躍起になっていたのは初の2,3年の間だったから。
かれこれ10年前ころのこと。
近隣の町村で、年に一度ある大規模な燃えないゴミの日とか、
町のごみ集積所とか、港とか、あらゆるところで。
思えばそのころの僕には得体のしれない情熱があった。
面白い素材が常に潤沢な状態でなければ、
使いたい、と必要が生じたときに、探しても
こういうものは見つからない。
その理屈だけを思って、鉄ばかりをコツコツ集めた。
ほんのちょっと前の出来ごとのはずなのに、
今、生活道具を過ぎた自分にとって、
それはまるで貝塚のように積み重なった、情熱の歴史に見える。
次々積み上がってゆく懐かしい錆モノ。
中には今も、あ、これ面白い、珍しい。もったいないかも。
と思うものもあるが、
多分使わない。
必要なことがあったとしてもいつのことだか。
だからさっぱり捨てることにした。
しばらく彼らに任せて、アトリエで作業を始めていたら、
入り口にあんちゃんが立っていて、僕に声をかけてきた、
「あのう、それ、ちょっと見学、というかみせてもらっていいっすか?」
と出来上がったばかりで並んだ10点ばかりの像刻を指さす。
「ああ、いいよどうぞ。」
あんちゃん、近くでそれをみたとたん、
「うわ!すげえ・・・・。指の先まで。うわー!」
ああ、こういう初な反応久しぶりだなあ。
たぶんこういうものを、一生のうちで今、初めて目にしてるんだなこの人。
なんか嬉しいなあ。
そのあとまた続けて、
「すごいっすねえ。今は鉄はもう使わないんすか?」
「そうだねえ、今はこういう木ばっかりだね。」
「うわー、これとかそっくり。これ売れるんじゃないっすか?」
「ははは、まあねえ。」
そうして、
「あれじゃないっすか、アニメのキャラとか、one pieceとか彫ればいけるんじゃないっすかね?」
「ああ、なるほど、ほんまやねえ。」
あー、君、全巻持ってそうだもんね。
僕はなんだかおかしくなってきて、笑いそうだった。
なんかそういうズレ加減は、むしろ心地よかった。
そうそう、こんな感じだ。
反応は人それぞれだ。
いずれにしろ、
僕はこういう絵にかいたような素人さんが、
まったく関心を示さないようなものは作りたくはない。
かといって、玄人さんに鼻であしらわれるのも癪に障る。
生活道具をやってるときもそれはそう思ってたな、確か。
そこを変えずに素材やモティーフを
次にスライドさせたかったんだったな。
そう思ったのが丁度10年くらい前になるのか。
図らずも、過去の素材の一掃は“今”の再確認みたいな形になった。
ああ、ますます日々芸を磨かなければね。
初心初心。
そんなことを思った一日。
ちなみに鉄くずとか諸々で、
千葉からナガシてきたらしいあんちゃんは、
お札を一枚置いて行った。
今日はすっきりさっぱりした気分でこれでご飯でも食べに行こう。