夜明け前。家から1時間余り車で走ったところにある
大洗港へ車を飛ばす。


朝5時。
常連の鈴木さんに連れられて、
乗船名簿に記入。お支払いを先に済ませる。
スズキさんは、僕のプール仲間で、還暦を迎えるものの、いまだアウトドアなんでも来いの元気なナイスガイだ。
「え、そちらさん初めて?スズキさんのツレなら安くしておくよ。」親切な感じのおやじさんだなあ。この人が船頭さん?
それにしても、いろんな意味で面白い体験だった。
船釣りなんて、子供のころ数回、瀬戸内の穏やかに凪いだ海に、
知り合いの漁師さんに連れて行ってもらったことがあるくらい。
それも、
船外機のついた、小さな船のヘリから糸を直接垂らして、
ベラやメバルなんかを釣る脈釣りだった。
の〜〜〜んびりした空気が好きだったのを覚えているくらいだ。
釣りなんておおよそそんなもんだと思っていた。
ほんの数日前までは。
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しかし、初めての太平洋(そとうみ)の洗礼はあまりに厳しいものだった。
船のヘリから見える波がしらが高い!水平線が水平じゃない!?
借りた雨合羽と救命胴衣の意味がいやでもわかる。
下手に竿を置いて狭い甲板を移動しようと、足元を見ようものなら、
たちまち吐き気が襲う。何よりバランスがとれず転倒は目に見えている。
だからとにかく出港から帰港まで数時間、基本、自分の持ち場の船べりから、
動くことは難しい。
そんないろいろな初めてのことに、
体中の神経を必死に分散させ続けた結果、
魚がかかった時の喜びやスペシャルな瞬間は
いつしかすっかり埋没してしまうのだ。
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スズキさんの雄姿。腰の入り方がまず違うんだな。
へろへろになった僕の体の真後ろから
船頭さんのホイッスルの音が響く。
ぴょろー!右舷左舷合計10人がの動作が見事にシンクロして反応する。
錘着底と同時に
6回巻き上げ再びしゃくりを開始!
あの、これ、
一体何工場?とか考えるとまたおかしくなってきて、
僕が脳内に逃避して遊び始めるころ
自分の竿にぐぐいい!とヒット。
お!大きいぞ。イナダかワラサか?
という未知への期待が、
疲弊した体をまたちょっと元気にしてくれるから、
これが見事に飴とムチ効果なのだ。
船頭さんは、とにかくこまめに魚群探知機を見てふねの移動を繰り返す。
ああ、いつこの船の舳先が、遠くにかすむ大洗港を向くのかなァ、、。
なんて申し訳ないことばっかり僕は考えていたんだけど、
船頭さんにしてみれば、この悪条件の中、
明らかに不漁の日に、僕らに1匹でも沢山釣ってもらおうと
時間いっぱいまで必死の工夫をしてくれてたんだなあ。
「昨日ならもっとよかったんだがなあ、、。悪い時に来たね。お客さん。」港に着いて、残念そうな感想を漏らす船頭さんの言葉を聞いて
僕はそう思った。
そしてその時にしてさらに気がついたことは、
なんていうかつまりこれは、
漁労長の主催するワークショップだったんだな。
ということ。
いえいえ、漁労長。決してそんな残念なことなかったですよ。
ものすごく貴重な初めて体験をさせていただきました。
海がとてもよくわかった気がします。
あ、でももうちょっと早く切り上げてくれたなら、
僕は今頃また別の感謝を漁労長に抱いてましたけどね。(笑)

これから冬に向けて、
獲物はイナダから、ヒラメに移ってゆく。
大洗に行った翌日。
気温はぐっと下がった。
木枯らし1号が吹いたそうだ。
あれより過酷の度合いは間違いなくさらに増す。
しかし、すごいよ。鈴木さんもほかの釣り客も。
また来月行きそうな勢いだったもん。
味のしみ込んだイナダの味噌漬けの香ばしい焼き色を口に含んで
ぼんやり思った。
自然は大好きだけど、僕はやっぱりインドアだなァ。
そこは微妙に矛盾はしてるんだけどな。
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