2009年10月19日

思い立ったがお出かけ魂 その1

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とにかく思い立ったのだからしかたがない。
よし、明日お伊勢まいりをしよう

丁度信楽のミホミュージアムで、若冲をやってるはず。
それも見たい、どうしても。
なるほど、ミュージアムは朝10時開館となってるから、
一番に入ろう。
ということは、茨城を朝3時ころ出発すれば
10時には着くな。
伊勢で1泊だな。

唐突な上、いつもながらずいぶんおおざっぱなプランだ。
急なので、チャイも人には頼めず、一緒に連れてゆくことに。
急きょ、長距離移動に備えて車の後ろ座席に
ベニヤ板で台をしつらえて、フラットにして毛布を敷いて。

真っ暗なうちに出発して、東名高速をトラックに混ざって西行。
おおざっぱプランにもかかわらず10時5分にきちんと
到着した。
おお、幸先いいぞ。最初がピタッとはまると実に気持ちがいい。

ミホミュージアムは7月に来たばかりだが、今はすっかり秋の装い。
紅葉の2歩くらい手前といったところだ。

で、若冲である。
お目当ての一つは、

「象と鯨図屏風」

昨年2008年夏に東北の旧家にて初めて存在が確認された。
修復も終わって、なんと今回が初公開。
6曲1双の、巨大な屏風絵だ。

それにしてもなんとおおらかな。
画面の外へまっすぐ突き抜ける潮吹きの、ためらいのない勢い。
どっしりと地面に伏した象の愉快そうな表情に、
くるくるとらせんを描く鼻の動きの愛らしいこと。

コンセプト?そんなこと知らへんわ。
陸のおうさまと、海のおうさま、両方描きたかっただけや。

80歳を迎えた奇代の絵師のそんな言葉といたずらめいた笑顔が屏風の陰に見え隠れするようだ。
モティーフとする動物への愛情に満ちたまなざしで知られる若冲だが、
その絵からにじみ出る突き抜けた境地が
214年の時間を経て、
僕ら観るものすべてをひよっこに変えてしまう。
感動はもとより、そう、圧倒された。
まだまだ若輩でした、と思わず首を垂れてしまう。
この世界には、尊ぶべきものがきちんと存在するのだな。
と、上からの押しつけや啓蒙でなく、
さらりと知らしめてくれる。そこがまた粋だ。


もうひとつは、
有名な「鳥獣花木図屏風」
これも奇妙な印象を受ける絵だが、
こちらはまるで飛び出す絵本のように、とにかく見る者をわくわくさせる、楽しくいたずら心を刺激する名画だ。
6曲一双の広い画面はすべて、約2センチ四方のマスに割られていて
それに一つ一つ色づけされている。
経と緯という要素と、周囲の装飾的模様などから、
インド更紗との関連が解説書には描かれているけれど、

これはどう見てもモザイク、
しかもタイル絵じゃないかなあ、
良く見るとただ背景の浅黄色の一ます一ますが、まるで釉薬がはげ落ちたようにさらに薄い水色で、ヨゴシが入っている。
マスの中心の色は薄く、外に向かって濃さが増し、縁に近づくにつれまたその明度が上がる。タイルの色ガラスの釉薬の濃淡そのものに見える。
うーん見れば見るほどマスマス(笑)タイルだ
一ますの色の濃淡の美しさから始まった視点を、後ろに下がりながら少しずつ引いてゆくと
徐々に色が隣のマスとつながり、色彩が共鳴し始め、
個々の動物の部分が突然現れる。奇妙にディフォルメされたエキゾチックな動物たちがやがて群像となり
ついにはちりばめられた色彩の全体像が浮かぶ。

観賞者が観ようとすると、
さまざまな立ち位置を絵が要求してくる。
これもまた若冲の仕掛けなのだろう。


ウタダヒカルのPVにこの絵の動物がCGで動き出すシーンが確かあって、それがまた美しかった。
時代によって、さまざまに読み替えられるこういった良いテキスト
こそ、名画の証なのだ。
なぜか時を越えていつも新しい。
はからずも形を得た日本の常若の思想そのものがここにある。

たとえば、籠目という、定番の呪術図形がある。
あれは直線を複数交差させることで出来るたくさんの“目”
に、妖怪や魔物など“わるいもの”が一瞬目を奪われたり、恐れをなしたり、
また文字通り、目をくらますことで、
人は難を避ける、というのがその意味らしい。
もっともそれで目を回している魔物の姿を想像すると
魔物といえどもどこか滑稽でかわいらしい。

若冲の仕掛けた無数の“目”はこれだ。
鯨と象のように圧倒される作品ではなくて、
つかまってしまうととにかく前から立ち去れなくなるのだ。

細部からさらに細部へ、引きからさらに俯瞰へ、
繰り返す。
ずっとその呪いに翻弄されたいようなそんな抗いがたい危うい魅力がこの絵に強くある。
いつしか自分が目くらましにあっている“魔物”になっていることに気づく。
この絵の前は現に混雑していた。
そして皆、目くらましをくらってうろうろと動かされているので、ついつい足が隣の人とぶつかり合ったりする。
これは、この絵が“有名”だからではない。
時を越えてその“仕掛け”が今現在も有効に機能していることの証拠だ。

他の作品もまた、負けず劣らず面白いので、
時間はあっという間に過ぎてしまった。

若冲はほかの多くの絵師と同じように、狩野派の門下で徹底的に
基礎を学んでいる。

この展覧会のポスターにある、

「法度(ルール)の中に新意を見出す」

という言葉が、観終わったあとリフレインのように効いてくる
コンセプトもしっかりと際立ったいい展覧会だったなあ。

さて外は降ったりやんだり、また日がさして、を繰り返す妙な空だ。
午後からは伊勢に向けてもうちょっと走ろうかね。

posted by 前川秀樹 at 20:14| Comment(0) | LOLO CALO HARMATAN | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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