ルビジノの近くの雑木林の美しき住民。
例外はあるとしても、おおざっぱに分けると、おおむねの男の子は
クワガタやカブトムシにはまる時期がある。
はしかのように。
僕もそうだった。普通の一過性のはしかではなく、高熱が続いた時期がある。
島の小さな田舎の学校の男子は皆それなりに夢中だった。
今年の初物を誰がゲットするか。いかに人よりの大きいものを、あるいは数を所有するか。
そんなことにひと夏を賭けた。
正直、集めるものは、ガチャガチャのゴムのスーパーカーやジュースの王冠、後はクワガタくらいしかなかったのだ。
それから時は経って、確かほんの数年前のことである。
僕より少し年下のとある企業経営者の知人と、たまたま、
海を見下ろす眺めのいい展望台の上に登った時のこと、
足元に落ちていたカブトムシの死骸を僕が見つけ、
ふと何気なしに話を切り出してみた。
「子供の時にやっぱりクワガタとかたくさん採りました?」
「ええ、はあ。やりましたねえ、そういえば、誰のが大きいってねえ。」「
あれってみんないつの間にか興味が去っていっちゃうでしょ?あんなに夢中だったのに。あれが終わっていくきっかけってそれぞれにあるんでしょうねえ?」 、「そういえばそうですね。」とか「そのきっかけってなんでしょうね。」という話の接ぎ穂を僕はその返答に期待していた。
が即座に返ってきた答えは。
「まあ、いつまでもそんなこというててもねー。ははは。」
「で、で・す・よ・ねー。」それであっさり話は終わってしまった。
まあ、ふつうはそんなもんだ。
そんなこと誰も意識はしないでいつの間にか大人になる。
が、そうしたあらゆる男の子熱が自然にひくことはない人間もいる。
車や音楽やスポーツに、とその興味の熱を若者的青春的に昇華させてゆく周りにあって、
事実上の置いてけぼり孤立状態を気取られまいとひた隠しにして、中学高校とやりすごし、
挙句ねじくれひねくれ何週回転もして、子供のころの高熱の行き場をどうにかモノツクリに求めたのが僕だ。
今はクワガタを見つけても、捕まえて持って帰ろううとはさすがに思わないけど
それでもこの時期、車の窓から雑木林をみつけると、まず周囲に人目がないことをしっかり確認し、敏速に侵入し、においをかぎ、スズメバチの羽音に導かれ、ピンポイントでやっぱり見つけてしまう。
あのフォルム。この艶。畜生!なんだ!背中が赤い!何その計算しつくされた様な角のねじれ。
カッコイイ。
なんて軽く一言ではとてもすませられない。
強いて一言で言うなら、
んカァァァッコウィ〜〜〜〜〜〜♪!!!まあそんな風。
僕の場合、いきもの全体に強く感じることなんだけれど、特に昆虫って色も形も美しい。
大人、というより大供の僕は何かの折にふとその熱が顔を出す。
今はおおむねそれは、モティーフとして、アンテナが反応するという意味でだけど。
そうそう、カッコイイと言えば、
昔、子供のころ夢中で見てた子供向けテレビ特撮ドラマ。
仮面の忍者赤影。その中で出てきた大きなカブトムシ型忍術怪獣?
黒い、大きい、ツヤツヤ、角にょっきり。
鉄甲アゴン。
んカァァァッチョイィ〜〜〜〜!!!!30何年か前。あの時はブラウン管の前で確かに友達も一緒に叫んでた。
男の子はみんないつどうやってあの熱病から卒業するのかのう。
今日は七夕、満月、加えて部分月食と聞いた。
きっと何か特別なエネルギーの月のめぐりがあるのに違いない。
そんな古い熱の痕跡をふとたどってみたりしたのは
そのせいだったのかもしれない。